スウェーデン政府のランドリー施策から見える「シェアリングエコノミー」の本質

「シェアリングエコノミー」の本質スマホの普及と同時に、爆発的に発展したシェアリングエコノミー。

その市場規模は2016年には約500億円に達し、2021年には約1000億円にも達すると予測されていました。しかし蓋を開けてみると、2020年時点ですでに2兆円を越える市場規模に達しており、今後シェアリングエコノミーが社会に与えるインパクトの大きさは計り知れません。

24時間中23時間は使われていない車に対して、「所有する必要があるのか?」と疑問を持つ人が増えたように、シェアリングエコノミーは所有の概念を再定義することになりました。

とは言え、シェアリングエコノミーは決して目新しいものではありません。例えば、24時間中23時間は使われていないという文脈では、洗濯機も車と同じことが言え、その意味では何十年も前から存在するコインランドリーはシェアリングエコノミーの先駆けとも言えるのではないでしょうか。

ランドリー

世界を見渡してみると、アメリカではアパートに備え付けられた共有のランドリールームを使うことが当たり前の文化として根付いていますし、エレクトロラックスの本社があるスウェーデンでは、アパートに共有の洗濯室を設置しなければならないという文化があるくらいです。

実は、そんなスウェーデンには国家戦略としてランドリーの整備を行ってきた歴史があり、かつて貧困国だったスウェーデンが世界屈指の福祉国家に上り詰めることができた理由の一つにシェアリングエコノミーによる恩恵が挙げられます。

スウェーデンのランドリー事情を紐解くと、シェアリングエコノミーの本質が見えてきます。

シェアリングエコノミーの本質は「安さ」ではなく「資本の最適化」

シェアリングエコノミー

シェアリングエコノミーが我々の予想を遥かに上回るスピードで成長しているのは、単に安く物やサービスを利用できるからではありません。

それは、放置されていた資本を稼働させ、社会の生産性を上げる力があるからです。

例えば、1日のうちほとんど駐車場に置かれている車や、不在時に空いている部屋をシェアすることで、世の中にあるリソースを稼働させ、社会の供給力を上げることができるでしょう。

世界のホテル

Airbnbのような企業は、シェアリングエコノミーのインパクトを象徴する存在です。

同社は世界191ヵ国で登録物件数が600万件以上にものぼり、宿泊者数は延べ5億人にも達します。

実はこの数字は、マリオット、ヒルトン、そしてインターコンチネンタルなど世界のホテルチェーントップ5の合計客室数を上回り、同社はホテルを一室も所有することなく「世界最大のホテル企業」に上り詰めたのです。

スウェーデン

AirbnbやUberは、放置されていたリソースを稼働させることによって莫大な価値を生み出してきたわけですが、この仕組みを半世紀も前から実践している国がスウェーデンです。

スウェーデンは世界の中でも男女間の経済格差が小さい世界屈指の福祉国家と認識されていますが、着目すべきは「男女間の能力活用機会」の格差が小さいという点でしょう。

スウェーデンでは女性を男性同様、重要な労働力として活用しながら、国を発展させてきた歴史があり、それを可能にしたのが共同洗濯室(ランドリー)でした。

共同洗濯室の整備がスウェーデン女性の社会進出の手助けとなった

女性も働いて

スウェーデンのマンションには共同洗濯室が設置されていることが一般的ですが、こうした共同洗濯室が広く整備されたのは1970年代頃のこと。

当時のスウェーデンでは少子高齢化が進行しており、福祉環境整備のために税収を引き上げる必要がありました。しかし、税金が高くなれば国民の可処分所得は減り、女性も働いて収入を得ることが求められるようになったのです。

しかし、当時スウェーデンの女性は家事や育児に多くの時間を割いており、中でも洗濯は女性の手を煩わせるものでした。

そこで、女性の経済的自立を促すために、スウェーデン政府は保育サービスの普及や税制改革を行いながら、アパートへの共同洗濯室の整備を行いました。

今でこそ、スウェーデンの新築マンションには各家庭に洗濯機と乾燥機が設置されていますが、当時は洗濯機が非常に高価だったことから、共同洗濯室でシェアする案が採用されました。その結果、主婦が洗濯に費やす時間は大幅に圧縮され、女性の貴重な労働力を家事に浪費させないことに成功したのです。

洗濯機

共同洗濯室で洗濯機をシェアすることで、これまで有効活用されてこなかった女性という人的資本を稼働させ、社会の生産性を大きくあげたことで今日のスウェーデン国家は成り立っています。

洗濯機をアパートの住人とシェアすることで家事にかかる時間を抑え、浮いた時間を仕事に使うといった人的資本最適化の考え方は日本でもジワジワと広がってきていて、実際にコインランドリーを訪れるとその変化に気付きます。

かつてコインランドリーと言うと、銭湯の隣にある薄暗い建物で、学生が主な客層というイメージがあり、実際、かつてのコインランドリーの客層は7割が学生でした。

しかし今、その割合は逆転しており、コインランドリー利用者の8割を主婦が占めています。

ランドリー

その背景にあるのは、女性の社会進出です。スウェーデン同様、日本でも社会福祉の充実のため税率が高騰しており、さらに男性の収入も頭打ちであることから、専業主婦だった女性たちが外へ働きに出る割合が増えてきました。

そのため、現代の主婦は一昔前と比べて家にいる時間が少なくなり、その結果、家事に当てられる時間が少なくなりました。

洗濯ができるのは仕事が休みの土日などに限られてきますが、たまの休日が必ずしも晴れとは限りません。その結果、仕事と家事を両立する下支えとしてコインランドリーが注目されるようになったのです。

現在では、ほぼ全ての家庭に家庭用洗濯機があり、乾燥機能がついた洗濯機も珍しくもないにも関わらず、仕事と家事を両立する主婦は有料のコインランドリーを利用します。

なぜなら、コインランドリーの業務用大容量洗濯機には、外干しや家庭用乾燥機を遥かに超える仕上がりを期待でき、さらに買い物の合間にコインランドリーを利用するなどして時間の節約に繋がると主婦たちは理解しているからです。

コインランドリーは年間約500店舗のペースで増加しており、20年前は1万店弱だったコインランドリーが現在では2万店舗程度にまで増加しているのは、こうした背景があるからなのです。

コインランドリー

コインランドリーは衣類を洗濯する場所ではあるものの、もっと大きな視点で捉えると、男女の労働機会を均等化させ人的資本を最適化させる上で、なくてはならない場所と考えることもできるのではないでしょうか。

シェアリングエコノミーという言葉が市民権を得た今、その本質を理解する上でコインランドリーは興味深い空間だと言えます。

参考サイト
コインオペレーションクリーニング営業施設に関する調査(総務省)
人口減少時代のICTによる持続的成長(総務省)
シェアリングエコノミー経済規模は過去最高の2兆円超え。新型コロナウイルスで新たな活用の広がり、SDGsへも貢献。
スウェーデンにおける仕事と育児の両立支援施策の現状ー整備された労働環境と育児休業制度

スウェーデン政府のランドリー施策から見える「シェアリングエコノミー」の本質 2023-12-04T00:17:56+00:00 Electrolux Professional