コインランドリーのサードプレイス化「その地域に何人の人がいるかよりも、どんな人がいるかの方が何倍も大切」

サードプレイス
サードプレイスの代表格として知られるスターバックスは、1990年代に職場と自宅だけを忙しく行き来するビジネスパーソンに対して、職場でも自宅でもない「第3の場所」を提供することで、大きな成功を納めました。スターバックスをカフェビジネスだと考えれば、お客さんの滞在時間を短くして、回転率を上げようとするでしょう。しかし、スターバックスは心地よいコーヒーの香りと音楽によって居心地の良い空間を作り出し、スタッフからの温かい気遣いも力を入れることで、むしろ長居できるような空間を提供している。

スターバックス

1982年に当時4店舗しかなかったスターバックスに入社し、1987年400万ドルで買収して、世界中にスターバックスを広げたハワード・シュルツは、スターバックスが成功した理由について次のように述べています。

「スターバックスが世界中で受け入れられているのは、世界中の誰もがヒューマン・コネクションを求めているからです。コーヒーとスターバックスがそれを作り出しました。恐らく、私たちが生きる現代は、今まで以上にヒューマン・コネクションが求められている時代なのでしょう。」

スターバックスがカフェを「コーヒーを飲みに行く場所」から「ヒューマン・コネクションを生み出す場所」へとコンセプトを180度シフトさせたように、コインランドリーも「ただ洗濯物を洗う場所」から洗濯という日常的な行いを通じて、別の付加価値を提供することが、新しいブルーオーシャンを開拓するキッカケになるのではないでしょうか。

スターバックス

コロナによって遠方への移動が制限されると、自身にとってより身近なローカルの文化が見直されるようになっていきます。

そして、ニューヨークのブルックリンやドイツのベルリンなどの文化が国を超えて、日本にも伝わってきているように、カッコいいローカル文化はインターネットを通じて世界中に広がっていくのです。

コインランドリーはコロナ禍や経済状況に関わらず、人々が自然と日々訪れる場所であるため、「洗濯」を通じて、地域のサードプレイス的な役割を果たすことは十分可能なのでしょう。

コインランドリーを地域のサードプレイスにする第一歩は、ゴミ拾い

ゴミ拾い

ビジネスにおいて、大きな利益を上げられる人というのは、一番努力した人ではなく、一番工夫を凝らした人になります。

コインランドリーが地域のサードプレイスとして、ローカル文化を良い循環に導けるかは、地域が望んでいるものをしっかりと提供できているかが一番重要です。

基本的にローカルの文化というのは、人と人の関係で成り立っていますから、どれだけ自分が良いと思うコインランドリーを作っても、地域のニーズを後回しにしてしまえば、ただの自己満足で終わってしまうでしょう。


星野リゾートは2012年、沖縄の竹富島に「星のや竹富島」を開業しました。星野リゾートは「星のや竹富島」をオープンすることで、地域の活性化を約束しましたが、地域の住民は、星野リゾートの考えに対しては半信半疑だったのだと言います。

そこで、星野リゾートのスタッフはオフの時間を利用して、草むしりを手伝ったり、地域の運動会などに参加することで、よそ者でありながら竹富島の人達の懐に飛び込んでいきました。

少しずつ地域の人達と関係を築いていくことで、星野リゾートは竹富島の人達の交流体験をサービスとして提供できるようになっていったのです。

コインランドリーを地域のサードプレイスとして機能させるためには、星野リゾートと同じように、まず自分がやりたいことよりも、地域の人達が望んでいることを提供し、ローカルの人達としっかり関係を築いていく必要があります。

地域の人達
最初は、地域の人達が何を求めているかということが分からないかもしれません。

そういった場合は、まずコインランドリーに来ていただくお客さんに対して、「誰かにできるけど、ほとんどの人が行っていないこと」を徹底して行っていくことが大切です。

例えば、笑顔をつくったり、お客さんの名前を覚えたりすることには一切お金がかかりませんし、その気になれば、いつでもすぐに実行することができます。

村上春樹の小説の舞台になったともいわれる名古屋市のレクサス星が丘店は、レクサスの販売店の中でも常に上位の売上を上げる店舗として知られている。

レクサス星が丘店の入口で警備員として働く早川さんは、店舗の前の道路をレクサスが通過すると必ず深いお辞儀をして、オーナーさんへの敬意を示すのだと言います。レクサスが次々と店舗の前を通り過ぎるため、1日1000回近く深いお辞儀をするというのだから驚きです。

地域の人達

レクサス星が丘店はオーナーさんの顧客満足度も非常に高く、ゼネラルマネージャーの吉田芳穂さんは「NO.1トヨタのおもてなし レクサス星が丘の奇跡」という本の中で、お客さんとしっかりとした関係を築くためには「サプライズよりもプラスワン」が大事なのだと述べています。

常に人が行き来するコインランドリーでも、地域の人達が居心地よく過ごせるサードプレイスとして機能させていくためには、地域の人達が望むプラスワンのコミュニケーションを意識し、少しずつ関係をつくっていくことが大切なのでしょう。

人が集まれば、自然と地域の情報も集まってくる。ネット上にある情報は二次情報、三次情報がほとんどですが、リアルな場所には一次情報が集まり、良い情報が集まれば、そこはサードプレイスとして機能するコミュニティになっていくのです。

まずは、コインランドリーの周りのゴミ拾いすることから始めてみましょう。

コインランドリー業界には「洗濯」以外の意味を作り出せるクリエティブ・ディレクターが求められている

クリエティブ・ディレクター

「コインランドリー=サードプレイス」という概念で考えれば、出店調査でチェックすべき内容の視点も変わってきます。

地域のコミュニティ性を重視したコインランドリーをつくって行こうとする場合、その地域に何人の人がいるかということではなく、どんな人がいるかという視点で地域を見ていく必要がある。

大型ショッピングモールやネットショッピングが広がるまでは、多くの人が地域の商店街で買い物をし、消費活動を通じて、地域のコミュニティが形成されていました。

確かに、ショッピングモールやネットショッピングによって利便性は上がったのかもしれませんが、利便性と引き換えに地域のコミュニティが壊れていってしまっては何の意味もありません。

クリエティブ・ディレクター

1930年代の後半にハーバード大学に入学した268人の男子学生の幸福度を、現在に至るまで、80年近く追跡している「ハーバードメン研究」というものがあります。

この研究では、長期的に人間の幸福に最も影響を与えるのは、周囲の人達の良質な人間関係だということが分かりました。

仕事でも、仕事の内容よりも職場での人間関係の方が重要だといわれます。テルアビブ大学のアリー・シロムらの調査によれば、中年と呼べる年齢の会社員の場合、同僚が友好的でない人は、友好的な人に比べて、調査期間の20年で約2.4倍の人数が死亡しました。

つまり、人生の幸福を長期的に考えれば、「人生の質=人間関係の質」であり、大抵の人は「一人」は好きでも「孤独」は嫌いなのだろう。

人との繋がり

SNSでより多くの人と繋がっているはずなのに、孤独を感じる人が年々増えている。その理由は、オンライン上のコミュニケーションは頭の中だけで行われていて、そこには「身体性」が抜け落ちてしまっているからなのではないでしょうか。

コロナ禍とはいえど、全く外に出ない生活がずっと続くわけではなく、人々は自分に近いローカルの範囲で少しずつ活動を再開させていきます。

そういった意味で、コインランドリーは洗濯という日常業務を通じて、地域のコミュニケーション力を上げるには、打って付けの場所だと言える。

経済的な数字を見ても、すぐに情報を習得しやすいマクロの数字だけを見て、議論しても意味がありません。

マクロ現象には、様々なミクロ現象が常に影響しており、ローカルの人達の生活の満足度が上がってこそ、国全体が反映していくことを考えれば、マクロ現象よりもまずはローカルのミクロ現象に焦点を当てていくべきなのでしょう。

人との繋がり

確かにコインランドリーは、一度に大量の洗濯物を洗うことができたり、自宅で洗えないものを洗えたりするなど、非常に便利であることは間違いありません。

しかし、現代の消費者がコーヒーショップにコーヒーの味以上のものを求めているように、これからの時代は、コインランドリーにも「ただ便利に洗濯する」以上のことを求めるようになってくるでしょう。

千利休は、どこにでもあるただの茶碗に別の意味を与えることで、美術品としての新しい意味を作り出しました。

コインランドリーも「ただ便利に洗濯ができる」という見せ方ではなく、地域のサードプレイスとして別の意味を与えてあげれば、毎回、毎回大きなプロモーションを行わなくても、自然とお客さんが来てくれるようになります。

今、コインランドリー業界にも新しい意味を作り出せる千利休のようなクリエティブディレクターが求められているのかもしれません。

コインランドリーのサードプレイス化「その地域に何人の人がいるかよりも、どんな人がいるかの方が何倍も大切」 2023-12-04T00:15:03+00:00 Electrolux Professional